■プロフィール
1977年、香川県丸亀市生まれ。20歳で大阪に移住し、フランス料理店などで技術を学ぶ。2014年に高松市にUターン、結婚し一児をもうける。市内のレストランで料理長として勤務。2015年に退職し、家族で男木島に移住。
- Uターン
- 子育て
- 起業
- 島ぐらし
住民わずか200人弱の男木島にビストロ開店
前田雄一朗さん:高松市在住・2015年移住・30代
古里に戻って新たな島暮らし 前田雄一朗さん
都会暮らしから30代で古里香川へUターン
若いころは、都会にあこがれていました。だから成人になるのを待ちかねて大阪で就職、飲食店に勤めました。そのうちに自立したくなり、フランス料理店で本格的に修行することに。けっこう苦労も多かったけど、何とか一人で前菜からデザートまでこなせるようになりました。都会は刺激的でしたね。仕事でも遊ぶにしても魅力的なところがいっぱいありました。思いっきり楽しんだ経験があるから、今でも大阪は大好きで時々遊びに行きます。
30代になって一生の仕事、ということを考え始めた時に、生まれ育った香川に帰ることを考えました。腕に自信はあったので、まずは高松で仕事を見つけてレストランの料理長を担当しました。郊外の林町に約1年間暮らしました。そこは職場まで車で30分ほどの静かな住宅街で、スーパーなど買い物にも便利。家族にはとても暮らしやすい場所でした。でも心の中に、本当はもっと別の暮らしをしたい、静かで落ち着いた暮らしをしたい、と思い始めていたんです。
そんなある日、妻がネットで高松市沖合の男木島の写真を見つけました。瀬戸内海にぽっかり浮かぶ島々。海を見下ろす斜面に家が建ち並び時間を忘れたかのような風景。「こんな所に住めたらいいね!」と言う妻の言葉に、まずは家族で行ってみることにしました。
島に魅せられ、夫婦で念願の店づくりへ
初めて島に降り立った日は、あいにくの暴風雨でした。そんな日も、島の人たちは僕たち家族に気さくに接してくれました。何度か通ううちに小中学校が再開したこと、保育所もできる事を聞きました。移住を考える僕たち家族を、まるで親戚の人たちのように温かく迎えてくれ、子育ても安心できることが分かりました。そんなこんなで移住の話がとんとん拍子に進みました。島の人が、すぐに住める状態の空き家を紹介してくれたので借りることを決意。2015年の春に引っ越して、島への移住生活が始まりました。
肝心の仕事について僕は、島からフェリーで高松に通い、港近くのスーパーなどで働こうと考えていました。でも妻から「島で暮らすのなら、働く場所も島にすべきだよ」と言われ、妻の言葉に背中を押された気がして、かねてからの夢だった料理店を開くことにしました。
店舗づくりが実は大変でした。男木島は路地と家並みが美しい島ですが、道が狭いため重機などが使えません。業者に頼もうにもまかせられないのです。そんな時に島に暮らす建築関係の経験がある人にあれこれ助言していただき、結果的にはセルフビルドで店を完成させました。テーブルやイスを組み立てたのも初めてでした。こうして移住からおよそ半年後の2015年11月に「ビストロ伊織」がオープンしました。
ビストロ店は島の人にも支えられ
今のところ営業は金曜から月曜日までの週4日。火曜日から3日間は材料の買い出しや仕込みに充てており仕事とプライベートのバランスがちょうど良い感じ。日々の暮らしは、午前7時ごろに起きてゆっくりと朝食。このあと店に行ってランチの仕込みをします。ランチ営業が終わったら片付けて自宅へ。息子と一緒にお風呂に入り、夕食を食べたりしてゆっくりと過ごします。妻は畑の手入れをしたり自治会の集まりに出たりと、けっこう忙しく過ごしています。週に一度は高松に買い出しに出かけます。高松港付近に車を預けてあって、日用品などをまとめて仕入れています。
ビストロでお出しする料理は、ほとんどが男木島でとれた旬の食材です。島の漁師さんから分けていただく魚介類をメーンに、野菜類は妻が畑で育てたものを添えます。近所の人たちから頂く野菜や果物類もありがたく使わせて頂きます。ですから私の店では肉よりも魚料理がメーンになります。メニューが限られると思われがちですが、瀬戸内の魚は種類が実に豊富です。初めてみる魚を前に、「どう調理すれば一番おいしさを引き出せるか?」とレシピをあれこれ考えるのは実に幸せな時間です。
お客さまのほとんどは島外から観光などでお見えになります。それでも全体の三分の一は島の人たちです。これはうれしい誤算でした。ご婦人方がテーブルを囲んでゆったりランチを楽しんで頂いているのをみると、ここで店を開いて良かったな、としみじみ思います。
ほかの島々と同様に、男木島でも高齢化が進んでいます。すばらしい島の環境で、みなさんがずっと元気でいて欲しいのですが、若い力も必要です。今の男木島は移住を希望する人たちの受け入れ環境が整っています。この島に来て実際の生活に触れていただいたら島の魅力が分かっていただけるはずです。ぜひ一度、男木島においで下さい。
(2016年3月取材)